今後成長が見込まれるマグネシウムの需要分野について

本日は、前回の非鉄金属産業競争力維持のための3大方針を振り返りつつ、定量的なデータも確認し、今後成長が見込まれるマグネシウムの需要分野について考えてみましょう。

先ず、前回までの振り返りとして、非鉄金属産業競争力維持のための3大方針は以下の通りでした。
省エネの推進
「投資回収効果が明確に⾒込める省エネ事業から(非鉄金属の)導⼊が進められている⼀⽅、『オペレーション効率の改善』など効果が不明確な事業においては、投資が⾏われにくい現状があるので、製造プロセスにおけるエネルギー消費量・オペレーション効率の可視化によって、省エネポテンシャルを把握し、⼀層の⽣産効率化を実施する」

リサイクルの推進
「特にレアメタル資源に関して、経済性と両⽴したリサイクル技術の開発・社会全体でのリサイクルフローの確⽴を引き続き進める」とし、同時に「静脈産業へのIoTの活⽤によって、リサイクルの効率化、サプライチェーン内のニーズの探知、新サービスの創出を⽬的として推進していく」

そのためには、
IoTの活用
IoTの活用により、「取得されたデータを計算科学手法」によって、「材料設計期間の劇的な短縮や、製造プロセスの革新的な改善が行われる可能性が存在する」と期待し、「こうした計算科学手法が有効に活用される製品分野の特定を行い、実導入に向けた検討を進める」

結論から申し上げれば、この3大方針をより強力に推進していける川下産業の製品分野が、今後より成長が見込まれるマグネシウムの需要分野と考えられます。

この点、先の、「2030年を見据えた非鉄金属産業戦略の概要(以下、概要といいます)」では、先ず、マグネシウムの産業状況を定量的に示し(概要P23~24)、2006年マグネシウム産業戦略の進捗状況を概観しています(P25~26)。
その上で、2030年を見据えたマグネシウム産業戦略として、「我が国マグネシウム産業は、輸送機器分野での使⽤拡⼤等、各需要分野それぞれでの取り組みに加えて、分野横断的にIoT・ビッグデータ・⼈⼯知能の導⼊によって⽣産レベルを上げることが、競争⼒向上につながる。」としています。生産工程の見える化による製造コストの削減、火災を中心とする産業事故の多いマグネシウム製品製造業務において、ロボット化・人口知能の活用による省人化等の検討を進めていくことが重要であると指摘し、
今後成⻑が⾒込まれる需要分野として、パソコン、スマートフォン ・⾃動⾞、鉄道、航空機 ・健康医療分野 ・エネルギー分野 ・添加剤、還元剤分野を挙げています。
以下、「各分野の需要動向と対策」についての記述をご紹介致します。

●パソコン・スマートフォンの需要動向と対策
インターネットやモバイルコミュニケーションの普及により、パソコン、スマートフォンの需要は新興国を中⼼に拡⼤する⾒通し。
パソコン、スマートフォンにおい てはより軽量化、⾼強度化、デザイン性が求められる流れでマグネシウムのニーズが⾼まる⾒込み。
今後の対策としては、
①ユーザー産業との対話・ニーズの理解を基に個社ベースでの技術開発を実施。
②パソコン、スマートフォンの組⽴加⼯は中国・韓国・台湾で⾏われていることが多く、重要な技術やノウハウの流出に注意しつつ、マグネシウム部材におい ても現地⽣産を進めることでコスト削減を実施。
③既存のマグネシウム合⾦は加⼯性が悪いことから、⾼成形性マグネシウム合⾦の材料開発が重要。

●自動車・鉄道・航空機の需要動向と対策
新興国では、経済成⻑によって輸送機器そのものの需要が伸びる⾒込み。
先進国では、地球温暖化対策として燃費の向上が求められることから、輸 送機の軽量化需要があり、⾃動⾞、鉄道、航空機において、より軽量で耐久性があり丈夫な部材であるマグネシウムのニーズが⾼まる⾒込み。軽量化 ニーズに伴い、アルミニウム合⾦の需要も増加すると考えられ、アルミニウム合⾦への添加材としてのマグネシウム需要も拡⼤⾒込み。
今後の対策としては、
①ユーザー産業との対話・ニーズの理解を基に個社ベースでの技術開発を実施。燃費規制等で⾃動⾞の軽量化ニーズが⾼まり、マグネシウムの⼤型展 伸材の製造に向けた技術開発や接合技術の開発が重要。
②鉄道分野では構造材の信頼性も重要であり、難燃性マグネシウム合⾦の開発を実施。
③マグネシウムを使った輸送機の需要拡⼤に向け、ユーザーへの情報提供の取組を強化。

●健康医療分野の需要動向と対策
⾼齢化社会では、介護福祉機器や⽣体医療⽤マグネシウムの需要増加が期待。軽量、丈夫、⽣体吸収性等の特性により、医療機器へのニーズも 拡⼤する⾒込み。
⾞椅⼦、シルバーカー、歩⾏器、松葉杖、ステッキ、義⼿、義⾜などは⼈間が移動、⾏動するための補助機器であり、軽さが求められる と同時に、⼈の命も守ることから強度⾯での要求も強い。さらに、マグネシウムは、⽣体吸収性能も有し、⽣体材料としてステント、ボーンプレート、ボルト、 ステプラー、縫合⽷、⾎管接合材等への適⽤も⾒込まれる。
今後の対策としては、

①ユーザー産業との対話・ニーズの理解を基に個社ベースでの技術開発を実施。軽量であると同時に⾼強度なマグネシウム製品を開発する必要。
②介護福祉機器に使⽤される材料には、さらなる軽量化ニーズからマグネシウムにも注⽬。マグネシウムとアルミニウムの地⾦価格は⼤差ないことから、マ グネシウムの加⼯コストを削減し、性能と価格競争⼒を有する製品提供に取り組む。
③⽣体医療分野では、製造技術の効率化によって、コスト低減を実施。●エネルギー分野と対策

マグネシウム電池は、海⽔などを注⼊する⼀次電池として、海難⽤やオゾン層観測⽤のバッテリーとして利⽤。軽量、安全性、⾼電気容量等で、災害時の緊急⽤エネルギー源としてニーズの拡⼤が期待。
今後の対策としは、
①マグネシウム表⾯への堆積物沈着によるイオン化の妨害や⾃⼰放電などの対策が必要。
②⻑期の耐久性があり、⻑期間の保管が可能であるが、使⽤後の廃棄処理の確⽴が必要。●添加剤・還元剤分野と対策

マグネシウムは低電位であり優れた反応性を⽰すことから、アルミニウムや銅合⾦に添加されるとともに、製鉄⼯程においてSO2ガスを吸着、塩素や硫⻩ 分の還元で、⺟材⾦属材料の特性を向上。合⾦等の軽量化、⾼強度化、⾼耐⾷性などのニーズから需要拡⼤を期待。
今後の対策としては、
①添加剤や還元剤⽤のマグネシウムのコスト低減のためリサイクル材の有効活⽤の取組が重要。本日は、ここまでと致します。

次回からは、いよいよマグネシウムの加工技術毎の最新動向、取り組み事例について、ご報告致します。